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2023/10/14 あらゆるジャンルに枝を伸ばすスピーチメロディ的系譜

恐ろしく単純・簡素に「スピーチメロディ」について振り返る。

スティーブ・ライヒは1988年の「ディファレント・トレインズ」で、話し声にピッチを見出しメロディ化するその手法に「スピーチ・メロディ(Speech Melody)」と名付けた。

Different Trains - スティーヴ・ライヒ(Steve Reich) (1988年)

しかし、当然、彼はその23年前、1965年に作曲した「It's Gonna Rain」においても、そのループする声にメロディを見出していたはずである。

これはオランダの作曲家で、ライヒの後継と発言するJacob TVが1999年に作曲したサクソフォンとテープ(サンプリングされたテレビ番組における凶悪犯・囚人の声)のための音楽。まさしくライヒ直系のスピーチメロディ。

GRAB IT! - ヤコブTV(Jacob TV, Jacob Ter Veldhuis) (1999年11月)

一方、2000年代、日本のネットカルチャーにて、ニコニコ動画では「音MAD」の文脈で「台詞イントネーション作曲」と呼ばれる作曲手法が現れる。これは偶然か、それとも意図的か不明だが、ライヒの「スピーチメロディ」と酷似している。

涼宮ハルヒの憂鬱Remix ナガトハウス - hogehoge(2008年1月)

わざとじゃないしー!貴様は貴様だしー! - Kew (2014年11月)

またはimoutoidが2014年に発表したこれ↓

ほーら、たまには日に当たらないと、カビが生えるわよ - imoutoid (2008年5月)

さて、2010年代、世界のポップシーンで活躍するベーシスト、mononeonはスピーチメロディの手法を用いたシリーズをYouTubeに連投し続けている。

TEACHER EXPLAINS THE "N-WORD" - MonoNeon(2017年2月)

また、ライヒの影響を公言するミュージシャンによるスピーチメロディの系譜としては、フランスのクリストフ・シャソルによるポップミュージックでの共同作業も見逃すことはできない。特にこのアルバムにおける作業は素晴らしい。

Can I Hold the Mic (interlude) - ソランジュ(Solange)(2019年07月)

作編曲:クリストフ・シャソル(Christophe Chassol)

そんなこんなで、梅本が2022年に作曲した「萌え2少女」はライヒの「スピーチメロディ」と、日本の音MADにおける「台詞イントネーション作曲」を完全に結びつける、言ってみれば文脈回収的試みだった。ふざけているわけではないのだ。

萌え2少女 - 梅本佑利(2022年9月)

こうした概念、手法は、あらゆる音楽ジャンルに導入され、発展し、その文脈は無限に続いていくのである。

はてさて、ここで100年ほど遡ってみる。すると20世紀(1900年代)初頭。ヤナーチェクのオペラにおける「発話旋律」に行き着く。

オペラ「イェヌーファ」Jenufa 第三幕 Chud'átko! - レオシュ・ヤナーチェク(Leoš Janáček)(1903年)

 

この作品では歌詞には散文の会話調のものが使われ、ヤナーチェクは「発話旋律」という技法を用いることで、自然な言葉の抑揚や人物の心理を表現し、そこから派生した動機によって曲全体を構成した。

または、その約10年後、シェーンベルクが1912年に作曲したかの有名な「月に憑かれたピエロ」における「シュプレヒシュティンメ(Sprechstimme, 語りの声)」も、その発話音楽的文脈に結びつくかもしれない。

月に憑かれたピエロ - アルノルト・シェーンベルク(Arnold Schönberg)(1912)

 

 

まだ参照するべき音楽はもうめちゃくちゃにありますが、疲れたのでとりあえずここまで。