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2023/08/09 弦楽器の必然的な運弓によるグルーヴのおもしろさを考える。

2023/08/09 弦楽器の必然的な運弓によるグルーヴのおもしろさを考える。

 

ボウイング(運弓)をメロディからではなく、全て移弦や、その他演奏家の身体感覚に対応させてフレージング(奏者が自由に考える)したらめちゃくちゃ良い演奏になることがある。

 

今年の4月に成田さんのために僕が作ったこの曲↓

ここでは、4拍子の一拍目以外の全てのボウイングを、楽器奏法の必然性と演奏家の身体感覚に委ねてみた。

(指示:「レガートは常に1拍目に置かれ、フレージングはアドリブとする。」)

楽譜↓

楽器奏法上、「遠隔の移弦」は、連続する音を物理的に途切れてさせてしまうから、それは、弦楽器にとって最も必然的な形でフレーズのリセットの役目を担う。

 

ヴァイオリンの調弦、4本の線:GDAE(ソレラミ)の五度間隔があったとして、E線で弾いてるとこから急にD線やG線に飛ぶと、当然、そのメロディは、身体や楽器、奏法の制約によって物理的に途切れることになる。

 

この音楽では、メロディ内部のそういった奏法や身体性に完全に従う部分(小節内の1拍目以降)と、意図的に逸脱する部分(小節内の1拍目)を分けた。

 

ちなみにこれを成田さんが弾くと、1拍目の強制的なボウイングのリセットに「重力」を感じると言うか、ふわっ、⤴︎って、車で道走ってたら、急降下で体浮いたとき?みたいな、どきっとした脱力感と浮遊感を感じる。めちゃくちゃ引き込まれる。

 

 

....んで、途中からは、4拍子におさまらない、俳句で言うと「字あまり」のメロディがひたすら繰り返されるために、同じ音形が一小節で16分音符一拍ずつズレていく(スティーブ・ライヒの「phasing」の手法をたったの1パートで成立させてるみたいな感じ。笑)んだけど、フレージングは拍子の一拍目で毎回リセットされる。そして小節の内部では、全て移弦に合わせたボウイングにする。

(↑上)このメロディ・モチーフ(16分音符が17個分)を、ひたすら繰り返すと、4拍子上(16分音符が16個分)ではどんどんズレてこうなる(下↓)。

演奏を聴くとわかるんだけど、4拍子のはずなのに、内部では多様な変拍子が形成されているように聴こえる(身体的にもそう見える)。

なんだろ、アーティキュレーションや拍子の固定に依存しない「必然的な変拍子」が内部に浮かび上がっているような感じ。

 

 

こういう、スティーブ・ライヒの「phasing」のような、ミニマル音楽(?)的な手法の中でこのアプローチをやると、この曲の場合、独奏なのに拍感覚がより多層的になっておもしろい。

当たり前だけど、パガニーニとか、クライスラーとか、演奏家が作った曲の楽譜見てると、メロディとボウイングがヤバいほど一体化してることがある。まー、そういう体感的な制約を無視するからこそおもろいことが起きたりするんで、そのやり方だけが最高に面白いとも言い難いんですけどね。

 

てな感じで、この曲みたいに、必然的な奏法を活かす方法は、わざとそこからズレる仕組みを効果的に組み込む(作為的な不自然さ、ズレ)ことで立ち現れたりする。

ちなみに梅本が今作っている音楽では、ヴィオラがこんな楽譜を演奏する。

ここには各所に跳躍する開放弦が散りばめられていて、そこでは強制的に、物理的な、身体的なフレーズの切断が行われる。

試しにこれをスタッカートで弾く(作為的なアーティキュレーションによるボウイング)とこうなる。

で、必然的なボウイング(跳躍する開放弦による物理的なフレーズの切断や、演奏家の身体性に合わせた自由な運弓)にするとこうなる。

ほ〜〜〜〜〜〜(^〜^)

弦楽器のボウイングって面白いね。の話でした。

 

2023年8月9日